いざ、国境を越えてポルトガルへ

サンティアゴ・デ・コンポステーラから南下すると田舎の川を挟んでこちら側がスペイン、あちら側がポルトガル。検問もイミグレーションもオフィスも何もない、本当にここが国境?と疑いたくなるような普通の橋を渡り、さすがEUだなぁ~と感心しつつ、あっという間に国境を越えてポルトガルに入った。
ポルトガルでしたいことはたった二つ。酒場でポルトガル歌謡のファドを生演奏で聞くことと本場のポートワインを飲むことだ。

ポートワイン発祥の地、ポルト

私が子どもの頃、ワインと言えば「赤玉ポートワイン」だった。イタリア料理はスパゲティのナポリタンとミートソースだけだった時代のことである。そのポートワイン発祥の地ポルトはポルトガルの語源となった街でもある。本場のポートワインは日本のとは違って元々は甘くなく、温めたワインに好みで砂糖を入れて飲む。きっと船乗りたちは航海や漁の後、ポートワインで冷えた体を温めたのだろう。

心にしみる路地裏から流れるファド

狭く入り組み、本当にこんなところに酒場があるの?という路地裏の奥にその店はあった。薄暗い店内に入ると通路の壁際の席に通された。隣にもう一つ椅子がある。しばらくするとファドギターの奏者がその椅子に座り、通路を挟んで1メートル先に若い男性が立って歌い始めた。通路がステージなのだ。
日本ではファドと言えば「暗いはしけ」が有名で、低い声で物悲しく歌う女性の歌というイメージだが、本場のファドには明るい恋の歌も陽気なお国自慢の歌もある。彼が歌ったのはまさにその類で、それはそれで若々しい声と相まってなかなか良かった。次に女性が出てきて何曲目かに「暗いはしけ」を歌ってくれた。日本でお馴染みの曲を本場で聞くことは旅の楽しみの一つ。艶やかな伸びのある声で情感たっぷりに歌う本場のファドを聴きながら飲むポートワインは体にも心にもじんわりと沁みて、私を温めてくれた。

ファドが聴ける路地裏の酒場

アズレージョ(装飾タイル)が見事なポルトのサン・ベント駅

スペインより古ぼけて見えるポルトのカテドラルと街並み